アマゾン――広大な緑の迷宮
「アマゾン」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?ジャングル、巨大な川、ピラニア、ピンクのイルカ……どれも正解ですが、アマゾンはそれだけではありません。実はアマゾンには個性豊かな都市がいくつもあり、その街を拠点にそれぞれ異なる顔を持つ自然や文化に触れることができます。
まずひとつ知っておいてほしいことがあります。ブラジルには「Amazônia Legal(法定アマゾン)」という概念があります。これは自然のアマゾン川流域だけを指すのではなく、アマゾン盆地を抱える9つの州(アマゾナス、パラー、アクレ、アマパー、ロライマ、ロンドニア、トカンチンス、マットグロッソの一部、マラニョンの一部)を包括した地域区分で、ブラジル国土の約60%に相当します。つまり「アマゾン」と一言で言っても、その範囲は想像をはるかに超える広さなのです。行く場所によって、見られるもの、体験できることはまったく異なります。ここは、そんなアマゾンのいくつかの街とその魅力をご紹介します。

マナウス ― ジャングルに囲まれた経済都市
マナウスはアマゾン最大の都市で、アマゾナス州の州都です。アマゾン川の河口から約1,700kmもの内陸に位置しながら、人口は約220万人。「陸の孤島」と言われるほど、空路と水路以外でブラジルの主要都市と繋がることが難しい場所です。アマゾンの存在がそれほどまでに巨大だということです。
この街が一躍注目を集めたのは、1967年に「フリーゾーン(免税都市)」に指定されたことがきっかけです。税制優遇を目当てに世界各地から企業が集まり、ホンダ、ヤマハ、パナソニックなど日本企業を含む500社以上が拠点を置く経済都市へと成長しました。ジャングルの真ん中に工場地帯があるという、なんとも不思議な光景です。
それでいて、街の外に一歩出れば、そこはもうアマゾンです。街から船でジャングルに入り、野生のピンクのイルカと泳いだり、ピラニア釣りに挑戦したり、ジャングルロッジに泊まって夜のジャングルを体験したり。先住民の村を訪れるツアーもあります。二河川合流点も港から船で約20分で見ることができます。都市のインフラが整いながら、本物のアマゾン体験に最もアクセスしやすい拠点として、世界中の旅行者が集まる街です。

ベレン ― アマゾンの河口に広がる都市
ベレンはパラー州の州都で、アマゾン川の河口近くに位置する人口139万人の都市です。マナウスがアマゾンの「入口」なら、ベレンはアマゾンが大西洋へと注ぎ込む「出口」にあたる街。ベレンもまた、緑の中にそびえるれっきとした大都市です。
2025年11月には、ベレンで気候変動に関する国際会議COP30が開催されました。世界最大の熱帯雨林を抱える国ブラジルがアマゾンの玄関口・ベレンで開催を選んだことは、森林保護というメッセージを世界に発信する強い意志の表れでもありました。
ベレン周辺には、トメアス(Tomé-Açu)という日本と繋がりが強い場所があります。ベレンから南西に約180km。1929年に最初の日本人アマゾン移民が入植した土地で、現在も日系コミュニティが根付いています。長年にわたって開発されてきた「アグロフォレストリー(森林農法)」は、生物多様性を守りながら農業を営む持続可能な農法として、環境保全の文脈でも国際的に注目を集めています。アマゾンと日本人移民の歴史を肌で感じられる、貴重な場所です。
マラジョ島 ― 牛と水牛が闊歩する島
ベレンの沖に浮かぶマラジョ島(Ilha do Marajó)は、アマゾン川の河口に位置する世界最大の川と海に囲まれた島で、その面積はスイスとほぼ同じくらいあります。広大な草原と湿地が広がるこの島に、なんと水牛が数十万頭生息しています。警察の移動手段も水牛。日本では想像もつかない光景が広がっています。先住民の陶器文化の遺跡も残っており、自然と歴史の両面で訪れる価値がある場所です。
またマラジョ島ではポロロッカと呼ばれる、潮の干満によって起こるアマゾン川を逆流する潮流を見ることができます。実はこの現象、世界中のサーファーの憧れでもあります。海の波とは違い、川を遡上する波のため、テクニック次第では何キロも、数十分も同じ波に乗り続けることができるのです。ポロロッカサーフィンの大会も開催されています。(※マラジョ島以外のエリアでもポロロッカの現象は見られます)

パリンチンス ― アマゾンの祭り、ボイ・ブンバ
アマゾナス州の小さな島の街、パリンチンスは、毎年6月の最終週末になると世界が変わります。ここで開催されるのがFestival Folclórico de Parintins。アマゾン最大の祭りと言われており、リオのカーニバルほど世界的な知名度はありませんが、ブラジルでは全国から観光客が訪れる大イベントです。
以前は民間伝承を元にした物語を、歌・踊り・演劇・巨大な山車で表現していましたが、現在ではアマゾン由来のテーマを広く扱っています。アマゾンの先住民の言い伝えや儀式、知恵、地域の生物多様性、川沿いで暮らす人々の話や習慣、信仰といった大衆文化など。
約1万4700人収容のブンボードロモ(専用会場)で、紅組「ガランチード」と青組「カプリショーゾ」の2チームが3夜にわたって競い合います。面白いのは、この対抗戦が街全体に浸透していること。空港に着いた瞬間から街中の看板・お店・コーラの缶まですべてが赤か青に染まっており、青いコカ・コーラの缶が見られる街はパリンチンスだけ、と言われているほどです。
サンタレン と アマゾンのカリブ海
マナウスとベレンのちょうど中間に位置するサンタレンは、アマゾン川とその支流タパジョース川が合流する地点の港町です。ここで見られるのが「2河川の合流地点(Encontro das Águas)」。タパジョス川の透明な青みがかった水と、アマゾン川の赤褐色の水が混ざり合わずに並行して流れる自然現象で、まるで一枚の絵のような光景です。
そしてサンタレンから40分ほどのところにあるアルテル・ド・シャン(Alter do Chão)は「アマゾンのカリブ海」と呼ばれるビーチリゾートです。とはいえ、ここは海ではなく川。タパジョス川の白い砂浜と青緑の澄んだ水が織りなす景色は、英紙ガーディアンによって「世界で最も美しい淡水ビーチ」に選ばれるほどの絶景です。川で泳ぎながらカイピリーニャを片手に、ハンモックでぼんやりする——そんな時間が過ごせます。
マカパ と アフアー「アマゾンのヴェネツィア」
アマパー州の州都マカパは、アマゾン川河口の北岸にある、人口約49万人の街です。最大の特徴は、街の中心を赤道が通っていること。「マルコ・ゼロ(Marco Zero)」と呼ばれる赤道の記念碑が街の中心に立っており、文字通り北半球と南半球をまたいで立つことができます。
さらにマカパから船で向かえるアフアー(Afuá)は、「アマゾンのヴェネツィア」と呼ばれる水上の街です。2002年から車やバイクといったモーター付きの乗り物が禁止されており、街全体の家屋が川の水位の変化に対応するために高床式の木造建築で建てられています。街中の移動はすべて徒歩か自転車。そのため、救急車もスクールバスもタクシーも全て自転車!アマゾンの川の流れに沿って暮らす人々のリズムが、そのまま残っている場所です。
先住民 ― アマゾンに生きる人々
ブラジルには391の先住民族が確認されており、その半分以上が法定アマゾンで暮らしています。さらに119のグループが、今も外の文明と一切接触することなく生活していると言われています。
その一方で、マナウス近郊などでは観光客を受け入れている先住民コミュニティもあります。村を訪問し、伝統的な暮らしや文化、儀式などを体験できる機会もあります。ただし、先住民の保護地区への立ち入りには、ブラジル政府機関FUNAI(国立先住民族保護財団)の許可が必要です。必ず事前に確認・手続きを行ってください。
アマゾンはひとつの場所ではなく、無数の顔を持つ世界です。ジャングルの体験を求める人、祭りに参加したい人、日系移民の歴史を辿りたい人、とにかく日本とは異なる非日常を求めている人——どんな目的にも、アマゾンはきっと応えてくれるはずです。

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